その瞳に写るもの(総珱+夜昼)


ふわりと優しく触れる指先
その唇から紡がれる己の名
些細な仕草にすら愛しさを覚えて―…



□その瞳に写るもの□



簾の掛かった縁側。
その下でゆるゆると吹く風が長い黒髪を優しく揺らす。

桃色の桜をあしらった着物の袖から、白く滑らかな指先をそっと伸ばし、己の膝の上にある、銀色に触れた。

さらりと、指に絡まること無く銀の髪は指先から溢れ落ちる。

「ふふっ…良く眠ってらっしゃる。何の夢を見ているのかしら」

膝の上にある無防備な横顔を見つめ、ふわりと笑みが溢れた。

「妖さま…」

再び銀の髪に指で触れ、すやすやと己の膝の上に頭を預けて眠るぬらりひょんに、珱姫の心はほこほこと温かくなる。

さらり、さらりと。

髪をすく指先は優しく、見つめる瞳は柔らかい。

「ん…お珱…」

「はい」

囁く様に名前を呼ばれて、起きてしまったかと珱姫は手を止める。…けれども、ぬらりひょんの瞼が開くことはなく。

緩く弧を描いた唇がまた甘く珱姫の名を紡いだ。

「…お珱」

「っ、…妖さま」

酷く甘い声音に珱姫はぱっとぬらりひょんの髪に触れていた手を離し、仄かに熱を帯びた自分の頬に押し当てる。

「もうっ、本当に何の夢を見ていらっしゃるのですか」

ぬらりひょんの頭が膝に乗っているせいで逃げることも出来ず、珱姫は恥ずかしい様な困った様な顔で呟く。

ふぃと、誰も見てはいないと分かりつつも恥ずかしさで視線を庭へと反らした。

その先に、

「っ!?大丈夫、夜!?ごめん僕が…」

「ンなことより怪我はねぇな昼?」

何故かずぶ濡れな夜のリクオと、それに慌てる昼のリクオの姿があった。

「まぁ、大変。何か拭くものを…」

と、珱姫は立ち上がりかけ、膝の上の重みに我に返る。

…立てない。

どうしましょうと珱姫がおろおろとし始めた矢先、ずぶ濡れだった夜が徐に肩から着物を抜き、上半身をさらけ出した。

「ちょっ、夜!?」

「何だ?」

着物が吸ってしまった水を絞り出す夜の側で、昼はぎょっと目を見開き、かぁっと顔を赤く染めてわたわたと慌て出す。

それは珱姫も一緒で、とっさに膝の上にある横顔に視線を落とした。

その耳にクツリと低い笑い声が届く。

「あ、妖さまっ!?いつから起きて」

「シーッ」

すらりと下から伸びてきた人差し指が珱姫の唇に触れる。

静かに、と悪戯っぽい笑みを浮かべたぬらりひょんは珱姫に向けた視線を庭へと移した。



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